ニュース

category

獣医学専攻オープンセミナー2016年度(4)

日時:2017年1月24日(火)16:30−17:30

場所:りんくうキャンパス2F第2講義室(Second lecture room)

 

「カンピロバクターの細胞壁の完全性と腸管内定着性」

Correlation between cell wall integrity and colonization ability of Campylobacter jejuni

 

秋庭 正人、Masato Akiba

動物衛生研究所 細菌・寄生虫研究領域 グループリーダー

Division of Bacterial and Parasitic Disease Research, National Institute of Animal Health, National Agriculture and Food Research Organization

 

世界保健機構の推計では、カンピロバクターによる食中毒事例は世界中で年間9600万件、発生しており、その数はノロウイルスに次いでいる。本菌は鶏が高率に保菌しており、主な原因食品は鶏肉である。ヒトは加熱不十分な鶏肉等を摂取することにより、本菌に感染する。したがって、農場汚染率を低減することはカンピロバクター感染患者数の低減につながると考えられる。そこで、我々はカンピロバクターの腸管内低着を防止する技術の開発を将来的な目標とし、そのための基礎研究としてカンピロバクターの腸管内定着に影響を与える因子の解析をこれまで進めてきた。まず初めに、トランスポゾン挿入変異株のライブラリーを作製し、胆汁酸抵抗性や自己凝集性を指標としたスクリーニングを行うことで、腸管内定着性に関与する因子の探索を行ったところ、外膜表面に存在するリポオリゴ多糖(LOS)の生合成に関与する酵素が、本菌の腸管定着に重要な役割を果たすことを見出した。この研究の中で我々は、LOS糖鎖が一定の長さ以下になると、胆汁酸抵抗性等が著しく低下し、腸管内定着性も減弱することを示した。さらに、我々はカンピロバクターの細胞壁の完全性を維持するためにペプチドグリカンのO-アセチル化が厳密に制御されていることを見出した。ペプチドグリカンO-アセチル化酵素を規定する遺伝子を欠失させると細胞の形態に変化は認められないが、本菌の運動性、自己凝集性、バイオフィルム形成能、リゾチーム抵抗性、血清抵抗性、マクロファージ内での生残性が親株と比べて低下し、ひいては腸管内定着性が低下することを世界に先駆けて報告した。ペプチドグリカンは細菌に特有の構造物で、これを標的とする抗菌薬系統が複数、実用化されているが、ペプチドグリカンO-アセチル化を標的とする抗菌薬は存在しない。本酵素は新しい抗カンピロバクター剤開発の標的として用い得るかもしれない。本講義ではこれらの成績を紹介する。

 

連絡先:生命環境科学研究科獣医国際防疫学教室

山崎伸二(内線2546)E-mail: shinji@vet.osakafu-u.ac.jp