ウェルシュ菌プロジェクト

【ウェルシュ菌下痢症を引き起こす『引き金因子』とその後のカスケード】

Intro
前のページで書いたように、ウェルシュ菌は腸管に到着すると、自分が腸管内にいることを感じとって、そこで芽胞形成と毒素産生を一気に始めるのです。これは、ウェルシュ菌の芽胞形成を誘導する引き金因子が腸管内にあることを意味します。この引き金因子は何か、そしてそれによって菌が芽胞を形成し、毒素を放出するメカニズムは何か、これらが私達が明らかにしたいと取り組んでいる、大きな研究テーマです。

 

既に胆汁酸がウェルシュ菌の芽胞形成を誘導するということは20年以上前から報告されていました。私達は独自の実験系でこれを詳細に分析すると、胆汁酸はこれまで知られていなかった少量(数マイクロモル/L)でも強く芽胞形成を引き起こすことを見つけました。この結果が示すことは、胆汁の芽胞形成促進作用は、ウェルシュ菌生体膜への非特異的なストレス作用(毒性)ではないだろうということです。おそらく、胆汁酸は菌の情報伝達カスケードを刺激して、芽胞形成→毒素産生へ至る経路を活性化しているのだろうと私達は考えています。

 

では、胆汁酸により誘導される菌体内カスケードは何でしょうか。これを解明すべく、ウェルシュ菌のトランスクリプトーム解析を行った結果、芽胞形成カスケードの最上流に位置する、芽胞形成のマスター・レギュレーター、Spo0Aが活性化していることがわかりました。しかしどうやって?という点がまだわかりません。現在、私達は様々なアプローチでこの点に取り組んでいます。

 

【ウェルシュ菌の芽胞形成をモニターするレポーターアッセイ】

ウェルシュ菌の芽胞を誘導する因子を同定することは、ウェルシュ菌食中毒を制御するために必要なプロセスです。しかし、芽胞形成因子を同定する作業は、面倒で時間のかかる芽胞定量法を用いる必要があります。そこで私達は簡便に菌が芽胞形成するプロセスを解析することができるレポーターアッセイの開発も行っています。

 

【生体内・自然界にある芽胞形成調節因子の探索】

上で述べたように、ウェルシュ菌の芽胞形成は毒素産生性とリンクしており、宿主体内で巧妙に調節されているようです。私達はこの調節機構に影響を与える生体内因子や自然界にある因子のスクリーニングも進めています。

 


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